大阪高等裁判所 平成元年(行コ)56号 判決 1990年10月26日
控訴人
大阪府地方労働委員会
右代表者会長
清木尚芳
右訴訟代理人弁護士
山口伸六
右指定代理人
藤川康典
同
小椋裕志
控訴人補助参加人
スタンダード・ヴアキユーム石油自主労働組合エッソ大阪支部
右代表者執行委員長
西塚美千子
控訴人補助参加人
久保田幸一
右両名訴訟代理人弁護士
菅充行
同
浦功
同
信岡登紫子
同
下村忠利
被控訴人
エッソ石油株式会社
右代表者代表取締役
エル・ケイ・ストロール
右訴訟代理人弁護士
小長谷國男
同
今井徹
同
中嶋秀二
右当事者間の不当労働行為救済命令取消請求控訴事件について、当裁判所は、平成二年七月六日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人補助参加人らの負担とする。
事実
一 控訴人補助参加人らは、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり付加する外は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決九枚目表一一行目の「不当労働意思」を「不当労働行為意思」と改める。)。
1 当審における控訴人補助参加人らの主張
被控訴人が導入している財形融資制度は、形式的には被控訴人が融資の斡旋をしているにすぎないかのようであるが、実際には被控訴人に融資の決定権があり、富士銀行に対する返済金も久保田の毎月の賃金や夏季及び冬季一時金から被控訴人が天引きするなど、被控訴人の意向が右制度の適用の重要な要素となっている。また、富士銀行が被控訴人の主要取引銀行であるなど被控訴人と同銀行、サービス会社の間には人事面や資本面で特殊な密接した関係にあるから、被控訴人が銀行等に事前に久保田の解雇通知をした段階で、被控訴人、同銀行及びサービス会社は本件競売に至る経緯を予想して久保田を困窮させるために競売を敢行し、三者が共謀して組合壊滅工作に加功したものである。
2 当審における控訴人補助参加人らの主張に対する被控訴人の答弁
当審における控訴人補助参加人らの主張は争う。被控訴人が採用している財形融資制度の対象金融機関は、富士銀行一社ではなく、第一勧業銀行、三菱銀行も対象となっている。また、財形融資制度の仕組みは広く一般に行われている方式であって、この制度を利用しているために被控訴人と富士銀行等が特殊な密着した関係にあるという被控訴人補助参加人らの主張は失当である。
三 証拠関係(略)
理由
一 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと考える。その理由は、次のとおり訂正・付加するほかは、原判決の説示する理由と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一〇枚目表五行目の「第一一〇号証の一、二」を削除し、同一〇行目の「第一〇八、第一一二号証」を「第一〇八号証」と改め、同一一枚目表七行目から八行目にかけての「割賦返済する旨」の次に「(第三条、同契約書別紙Ⅱ『保証および融資条件』第8条(4))、従業員において富士銀行に対する債務の履行を二か月延滞したときは、富士銀行はサービス会社に対し保証債務の履行を請求することができる旨(第七条第一項第一号)、」を加え、同九行目の「銀行は」を「被控訴人は」と改め、同一一行目の「全額を」の次に「退職金等で一括」を加え、同行の「とる旨」を「とる旨(第九条、同契約書別紙Ⅱ『保証および融資条件』第8条(2))」と改め、同行末尾に「そして、被控訴人はこれを受けて従業員の福利厚生制度の一環として『財形住宅融資制度』を規定し、これに基づき財形住宅ローンの借入希望者に対し利子補給等の援助をしていたが、右規定においても従業員が退職する場合は残存債務を一括返済する旨規定され、また、従業員から被控訴人に対して差し入れることとなっていた『覚書』にも『当該借入金の弁済完了前に、定年その他事由の如何を問わず、私が貴社を退職するに至った時は、貴社より私に支給される退職金から当該借入金及びその利息の未返済分を引き去り、株式会社富士銀行に弁済して下さるようお願い致します。尚、退職金のみでは上記未決済分に満たない場合は、貴社の指示に従って別途不足額を直ちに返済することを誓約致します。』と記載されていた。」を加え、同裏四行目の「返済する旨」の次に「並びに同銀行に対する債務の一つでも違反したときは期限の利益を失い、直ちに債務を弁済する旨」を、同一三枚目表二行目の「なお、」の次に「これより先、」を、同五行目の「資料はない」の次に「こと」を、それぞれ加え、同裏四行目の「保全当」を「保全等」と改める。
2 同一五枚目表一〇行目の「久保田が、」を「これは利用者に対し一律に適用される前認定の『財形住宅融資制度』の規定に従ったものに過ぎない上、もともと本件財形住宅ローンは久保田がサービス会社の保証の下に富士銀行から個人として金銭を借受けたのであるから、久保田が本件不動産の所有権を喪失するか否かは、同人の本件財形住宅ローンの返済の有無及び担保権の実行の有無にかかるところ、同人が」と、同一二行目の「可能であったこと、」を「可能であり(前掲丙第一号証によれば、組合に所属する組合員が被控訴人から解雇された際に本件と同様に財形住宅ローンの融資返済問題が生じたが、同人らは金融機関に一括返済していることが認められる。)、また、担保権が実行されるか否かは久保田と同銀行及びサービス会社との間で決せられるものであって、被控訴人はこれに関与できないのであるから、いずれにしても被控訴人の行った本件解雇が本件不動産の所有権の喪失と直接結びつくものではない。しかも、」と、同裏六行目から七行目にかけての「同号証」から同行の「右契約において」までを「富士銀行がサービス会社に保証債務の履行を求めたのも、」と、同九行目の「旨約定していること、」を「旨の前記契約書第七条の約定に基づくものであること、」と、同一一行目の「通知に対し、」から同末行の「ないから、」までを「通知に対して同銀行等がこれに沿った対応をしなかったのは、同銀行等は久保田の使用者ではなく、本件財形住宅ローンの返済の可能性、久保田の返済能力について関心を有している金融機関及び信用保証会社にすぎないからであって、」と、それぞれ改め、同一六枚目表四行目の「認められる。」の次に「さらに、前掲甲第一〇八号証及び乙第一三号証によれば、被控訴人の財形住宅ローンの取扱銀行は大阪以西の支店、営業所等は富士銀行であるが、本社等は第一勧業銀行であり、東京以北の支店、営業所等は三菱銀行であり、一般財形の取扱銀行は三井信託銀行であって富士銀行のみではないこと、被控訴人の役員には富士銀行の出身者は一人もおらず、資本的な関係もないこと、富士銀行は被控訴人の主要取引銀行の一つであるが、他にも同様の立場の銀行があること及び被控訴人とサービス会社との間も人的及び資本的な繋がりはないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないから、被控訴人と富士銀行及びサービス会社との間に特殊な密着した関係があるとは到底いえない。」を加える。
3 同一六枚目表九行目の「沿う」を「副う」と、同裏一一行目の「回避することを目的とした事実」を「回避するためであったこと」と、それぞれ改める。
4 同一七枚目表四行目の「原告は」から同五行目の「また、」までを削除し、同一一行目の「本件」から同一二行目の「存在するが、」までを「前記財形住宅ローンに関する契約書第九条第二項には『真に已むを得ない理由により、退職時に従業員が残存債務を完済できないときは、被控訴人は富士銀行及びサービス会社に残存債務の償還方法等につき協議し、かつ協力するものとする。』と規定されているが、」と、同末行の「右義務を行ったと」を「富士銀行及びサービス会社と久保田の残債務の返還方法等について協議をしたことを」と、同裏初行から二行目にかけての「退職金に」を「退職金の」と、同二行目の「しかしながら」から同一二行目の「久保田において」までを、改行して「ところで、被控訴人が採用している財形住宅ローン制度においては、従業員が約定どおり返済しないときは、通常富士銀行はサービス会社から保証債務の履行(代位弁済)を受けて貸付金を回収し、サービス会社は従業員所有の不動産に設定された担保権を実行してこれを換価して債権の満足を受ける仕組みとなっているのであるが、前認定の契約書第九条及び『財形住宅融資制度の規定』、『覚書』の各記載によれば、従業員が退職する場合には約定どおりの返済ができなくなる虞れがあることから、従業員の富士銀行への財形住宅ローンの返済がサービス会社の保証債務の履行(ひいては不動産に設定された抵当権の実行)によらなくともできるようにするために、被控訴人に対し、退職にあたって被控訴人から支給される従業員の退職金を財形住宅ローンの借入金の返済に充てることを義務付けているのである。ところが、右規定に従って退職金を充当したにもかかわらず従業員の残存債務を完済できないときは、前記通常の返済方法によることとなるのであるが、残債務を完済することができない理由が『真に已むを得ない』ものと認められ、残存債務の返済につき前記通常の返済方法によるのではなく、被控訴人も何らかの関与をすることが相当と考えられるような場合については、例外として前記契約書第九条第二項によって被控訴人も従業員の残存債務の返済方法につき富士銀行及びサービス会社と協議、協力することを合意したものと解される。ところが、久保田は業務命令違反を理由として懲戒解雇されたのであるから、久保田には」と改め、同末行から同一八枚目表初行にかけての「いうべきである。」の次に「なお、成立に争いのない甲第一一〇号証の一、二によれば、被控訴人の退職手当金制度においては『本人の責に帰すべき事由により会社から解雇される場合、会社が専らその裁量によりその支給額を決定し、支給することがある。』と規定して、被控訴人は懲戒解雇された従業員に対し退職金を支給するか否かについて広範な裁量権を有していることが認められるから、懲戒解雇された久保田に退職金が支給されないために同人の本件財形住宅ローンの返済が困難となるとしても、このことを非難することはできない。」を加える。
5 同一八枚目裏八行目の「前掲」から同九行目の「よれば、」までを「前認定のとおり」と、同一〇行目の「制度につき」を「制度においては」と、同一二行目の「規定されていることが認められる。」を「規定されているところ、」と、同一九枚目表二行目の「貢献度も」を「貢献度にも」と、それぞれ改める。
二 してみれば、これと趣旨を同じくする原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中川臣朗 裁判官 永松健幹 裁判官緒賀恒雄は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 中川臣朗)